< home2003年目次 > 1_バンコク中央駅 > 2_タイ天国と地獄 > 3_混沌のアジアビーチ > 4_カメ島へ行く > 5_パンガンに挑む > 6_夢の終わり > 7_ハードコンタイ > 8_赤土の大地へ > 9_恋するチェンマイ > 10_山の子 > 11_故郷(ふるさと) > 12_花見タイランド > 13_旅のトラブル > 14_時代 > 15_旅というレース >

旅のトラブル


 生きていれば何かとトラブルが起こるものだが、旅先ではトラブル発生件数が飛躍的に伸びる。慣れない環境での生活に起因する体調不良。言葉や習慣の違いから生じるトラブル。そして旅行者を狙う悪意の第三者によって起こるトラブル。
 私の場合は往々にして自分の勘違いから発生するトラブル、すなわち言葉や習慣の違いに起因するトラブルというのが多く、次いで体調不良、悪意の第三者によって・・というトラブルはきわめて少ない。おそらく多くの旅行者も同様であろう。
 と思っていたのだが、すごいやつに会ってしまった。
 話は少しさかのぼり、ところはチェンマイ、宿のプールサイドで二人の日本人青年に会った。二人はともに大学生で、春休みを利用してタイに来たという。タイに行こうと思ったきっかけは行きつけの理髪店で、店の人がこう言ったのだそうだ。
 タイじゃ十万もあれば豪遊できるんだ。有名なビーチリゾートもあるし、有名な遺跡もある、見所も多くてすごく楽しいところだよ。
 これを聞いた二人はバイト代をかき集め、タイまでやってきたという。滞在期間は約二十日間。バンコクからアユタヤ、スコータイとまわり、現在地はチェンマイ。この先は一気に南下し、プーケットに寄って日本に帰るという。現在、日本を出て十日目ほどだそうだ。
 そんなわずか十日間で、二人が遭遇したトラブルは・・。
 まずバンコク到着早々にブランド詐欺。これは宝石詐欺と同様のパターンの詐欺で、タイ詐欺の王道とも言える定番詐欺である。外務省の渡航情報でも宝石詐欺についての注意を促しており、具体的な内容は以下のようなものである(2003年6月)。


 >王宮や寺院等を観光していると、行く先々で、親切に案内してくれる人や言葉巧みに近寄ってくる人(実は同じ犯罪グループ)が、「宝石を安く買って、日本の有名宝石店に売れば、2〜3倍で売れるので儲かる」と話をされる。
 >旅行者は、違う場所で違う人から聞く同じ話につい信用してしまい、案内された宝石店で宝石を買うと、粗悪な品物であったり、日本に送るよう手配したのに送られてこなかったりする。


 二人が遭遇したのはこの詐欺のブランドバージョンである。
 それからたぶんバンコクの王宮広場でだと思うが、ぼったくり鳩エサばばあにもつかまって、一人はついうっかり鳩えさに100バーツを払ってしまったと言う。ちなみに鳩エサの相場は5-10バーツといったところ。相当な暴利である。あの界隈には行き交う旅行者に強引に鳩エサを押し付け、旅行者が受け取ると同時に高額の料金を請求するという、他愛もない、しかし遭遇してしまうと結構腹の立つ、悪質鳩エサ屋が多発している。
 ちなみにこいつら、私は両方遭遇している。鳩エサは悪質鳩エサ屋のメッカ王宮広場で、宝石詐欺は日本人納骨堂付近でのことだった。
 鳩エサ屋はタチレクの乞食(*1)よろしく次から次にあらわれて、かなり強引な商売をしていた。本来資本主義商売というのは客の気持ちを重んじ、客を気分よくさせて買わせるのがスジであるが、こいつらにそんなスジはない。歩いているだけで次から次に、エッサー、エッサー、と言う、見るからに下品で無愛想なばばあ(じじいは少なかった)がやってきて、鳩エサを押し付けてくる。私はこれだけで旧国鉄の売店のばばあに遭遇したときのような不快感がこみ上げてきて、タチレクの乞食よろしく、あっち行けキチガイばばあ!と日本語で叱責してしまった。
 比べて宝石詐欺はというと、実に資本主義商売にのっとった商売をしていた。きれいな身なりをし、常に笑顔を絶やさずフレンドリーに、客の気持ちを重んじることも忘れずに、だ。鳩エサばばあどもに見習ってほしい限りである。
 宝石詐欺はマニュアルどおりに英語の達者なやつで、君はタイ人か?と、これまたマニュアルどおりに声をかけてきた。
 同胞だと思うなら、何故英語で声をかけてくる?
 このあたりの落とし穴に気づかないところが、へなちょこタイランドである。しかしこれで浮かれてつい話を聞いてしまう日本人があとを絶たないというのだから、日本人も相当へなちょこである。
 これはおそらくタイ人とは正反対の、謙虚で自虐的な日本人の国民性ゆえだろう。日本人だと思われると足元を見られるとかいう自虐性や、もとよりの日本人なんてたいしたことないですよ、へ、へ、へ、という謙虚さ。これらがあいまって、現地化理想論が生まれたのに違いない。
 現地人っぽく見られたい。現地人っぽく見られればバカにされない。
 そういう刷り込みがあるから、君はタイ人か?(日本人ぽく見えないな)などと言われると、つい浮かれてしまうのだろう。
 そんなわけで、タイ人はあの自信過剰な性格をどうにかした方がいいが、日本人はあの謙虚な性格をどうにかした方がいい。自信過剰にもほどがあるし、謙虚にもほどがある。何事もほどほどが一番だ。
 そしてどこだかで宝石フェアーをやっているとか何とか、今日はすごいお買い得な商品がたくさん出るスペシャルデーだから是非行けとか何とか、これまたマニュアルどおりにすすめるのだった。
 金持ってないよ。
 ホントのことだった。帰国を間際に控えたあの日、私は詐欺師君の想像する日本人の財布の中身とは相当にかけ離れた金額しか持ち合わせていなかった。
 大丈夫、カードも使える。
 カードも持ってない。
 これはウソだが、何とはなしにウソがクチをついて出た。
 カード持ってないの!?
 うん。無職だから、カードは作れない。
 無職?
 うん。無職。
 ・・・・・。
 詐欺師はダメだこりゃと、呆れて撤退。さらには私の英語能力にも相当呆れていた模様。
 先の学生二人が出会ったのはこれのブランドバージョン。お得なブランドのバーゲンがあるから是非行けと、まったく同様の手口ですすめてくる。聞けば一人は英会話がそこそこにできるという。
 英語力がアダになったね。
 え?
 なまじっか英語がわかるから、相手の話を聞いちゃうんだきっと。
 そういうもんですか?
 そういうもんだよ。うちら英語わからないから、詐欺師に逃げられた。
 マジですか?
 うん、マジ。
 そして、アユタヤの両替詐欺。日本のコインを持った男が、日本のコインはタイでは使えないからバーツに換金してほしい、と言うのだそうだが、現在1タイバーツは3円前後、それをひっくりかえして、1日本円は3バーツだから、400円を1200バーツと換金してくれ、と言うのだそうだ。
 で、ついうっかりそれに応じてしまった・・と?
 ええ、そうなんですよ。あとで考えたら絶対におかしいじゃないですか。400円は150バーツそこそこですよね?
 うん、そうだね。
 やられましたよ!
 確かに、少し考えればあきらかにおかしい。でも、慣れない国の通貨というのは金銭感覚がマヒしてしまうのだ。それはとてもよくわかる。
 たとえばマレーシアのリンギは1リンギ40円ぐらい(2002年2月)なのだけど、タイからマレーに入ると、桁が一個ずれることになるので、わけがわからなくなる。20リンギと請求されているのに、200リンギ出してスーパーで泡食われたことがある。自分の中では、これだけの買い物をすればおそらく200「バーツ」ぐらいだろう、と、思っているから、つい「200」リンギ出してしまうのだ。
 それから、ラオスキップ。こいつはへなちょこに弱い通貨で、何と、1キップの価値が0,05バーツ(2000年2月)しかない。1000キップで5バーツだ。こうなるともうお手上げだ。タバコ一箱3000キップ、タクシー近距離1000キップ、宿一泊20000キップ・・。ラオス滞在中はただただ桁数の多さに呆然とし、対日本円レートなんて考える余裕もなく、とにかく支払いの段になったらタイバーツでいくらなのよ?を連呼し続けた。
 その状態で奇妙なレートで両替を頼まれたら、自分もやはり応じてしまうかもしれない。
 ていうか、チャアムの食堂のにいさん。世界の紙幣を集めていると言った、あのにいさん。彼もまた両替詐欺だったりなんかして?実はあの両替は詐欺の原材料の日本円を仕入れているところだった・・なんて?
 だとしたら相当におかしな話であるが、まさかそんなことはない・・と思うことにする。もしそうだったとしても私には特に被害はなかったのだから、まあよし・・と思うことにする。
 しかし、まだまだネタは尽きず、その手の話になると次から次に出てくる。
 ベニヤ板に絵が描いてあって、穴から顔だけ出して写真撮るやつ、あるじゃないですか?
 ああ・・。お宮の松のとこにある寛一お宮のベニヤ板とか、ああいうの?
 そうそう、それそれ!あれね、有料なんですよ!
 は?
 まさかそんなもんに金取るなんて思わないじゃないですか。だから面白がって顔出して写真撮っていたら、物陰から男が出てきてトゥエンティーバーツだって!
 ぎゃはははは!!!
 申し訳ないが、笑ってしまった。まさかそんなもんに金を取るやつはいないと思ったと二人は言うけど、まさかそんなもんに引っかかる日本人がいるとは思わなかった私は、本気で笑い転げた。それでも年寄りならまだしも、二十歳そこそこの若者がそんなものに・・!
 ひゃーっはっははははは!いーっひっひっひひひひっ!くぅー、涙出てきた。くっくくく・・。
 でもね、でもね、聞いてくださいよ!
 何よ?
 西洋人の旅行者もみんな写真撮ってて、みんな20バーツ取られてたんですよ!!!
 ぎゃあーっはっはっははははははははははははは!!!
 ホントのホントに、死ぬほど笑った。久しぶりにこんなに本気で笑い転げた。危うくプールに落ちるところであった。この状態で落ちたら、おそらくおぼれるだろう。タイ人は泳げないくせに、タイのプールはやたらめったと深いのだ。水深が二メートルぐらいあったりする。
 ちなみにこのベニヤ板詐欺・・というのだろうか。よくよく見たらベニヤ板の片隅に小さく「20バーツ」と書かれていたと二人は言ったから、正確には詐欺とは言わないのかもしれないが。ともあれこのベニヤ板詐欺にはタイ人も多く引っかかっているようで、つい先日も旅行番組で警告を促していた。
 てゆうか、こんなのに引っかかるのはタイ人ぐらいのもんだろう?
 そう思っていた矢先のことだったので、死ぬほど笑った。
 それにしても十日ぐらいの滞在でそこまでだまされちゃうっていうのは、それはそれですごい。確かにこういうマヌケな悪意の第三者によるマヌケなトラブルというの、長く旅を続けていればときには遭遇することもあるが、せいぜい月に一度といったペースである。それも一人旅ならまだしも、二人でいればどちらかが、ねえこれおかしくない?と気づきそうなものだが・・。よくよくワランポーン駅前の代理店軍団に引っ掛からなかったものである。と思ったら、二人はバスで北上して来たらしい。汽車でワランポーンを出発していたら、もれなく旅行代理店軍団にもふんづかまっていたのだろうな。
 チェンマイからプーケット(ハジャイ)までは汽車で行きたいと言っていたから、乗り換え(ワランポーン)にはくれぐれも注意されていただきたい。
 なんてことを言うのも野暮なので、そんなことは言わなかったが・・。
 だいたい二人はそれでもあっけらかんとして、それはそれで初めての海外を存分に楽しんでいる様子であった。ここで水をさすのはやはり野暮というものだろう。
 でもやっぱ、これだけネタ持ってるっていうことは、自分でも気づいていない「小ネタ」をまだまだいっぱい持っているんだろうな・・。知らないうちにぼられていたとか、遠回りされていたとか、かすめられていた、みたいなの・・。
 ところでこれが初めての海外旅行なんでしょ?
 ええ、そうです。
 じゃあ次はどこに行ってみたい?
 そうですねえ・・。
 一人は少し考えてから、彼女を連れてもう一度タイに来たいと言い、もう一人はそれには答えず、インドってどうなんですかねえ・・とつぶやいた。
 そんなネタ満載の二人と別れ、不本意なスプリンターに乗せられてバンコク、ナコンパトムと経由して、カンチャナブリに到着したある朝のことだった。
 連れが朝から浮かぬ顔をしているので、どうしたのかと聞くと、靴がないと言う。
 靴?
 そう、靴がない。
 ウソでしょ?
 盗まれた。
 ウソでしょ???
 ホントだよ。
 タイでは靴(サンダル)泥棒というのが頻発していると聞いたことがあるが、まさか自分(の連れ)が遭遇するとは思わなんだである。
 ちなみにタイの家屋に「玄関」はない。ゆえに、タイの家屋では家屋の外に履物を脱ぐ。これはおそらく裸足の国民の名残であろう。本来裸足で暮らしていたこの国には、屋内を土足厳禁とする習慣があるのだが、何しろ本来裸足なので玄関というものがタイの家屋には存在しない。よって履物は家屋の外に脱ぎ捨てる。下駄箱のある家もあるが、それも家屋の外に置かれているのが一般的である。ゆえ、この国は靴盗り放題、靴泥棒頻発、である。日本で言うならチャリンコ泥棒みたいなものである。何につけても日本には異常な数のチャリンコが存在しているし、専用駐輪場という概念も薄い。街角のそこここに、家屋の敷地外に、無数のチャリンコがむき出しになって並んでいる。
 日本は自転車たくさん、泥棒カンタン。
 そう言った在日タイ人氏がいたが、ごもっとも。そしてタイは靴たくさん、泥棒カンタン、である。
 宿の食堂で、靴屋はどこにある?と聞くと、バスターミナルの近く(市場)にある、と言われる。ゆうべ、靴を盗まれたんだ、と言うと、一同爆笑。ここのボスの息子らしいおにいちゃんがタイ人の団体客の方をちらと見てから、今晩俺が泥棒を撃ち殺してやる、と、鉄砲を撃つ真似をしてみせた。さすがのタイ人(宿のにいさん)も、靴なんか盗むのはタイ人(の泊り客)に決まっている、そう思っているようだった。
 その晩、宿のにいさんとその友人のNとAとKは、遊びに行くと言って宿を出て行った。
 って、ちょっと待て!!!おまえらが出て行ったらフロントは誰が面倒を見るんだ!!!一体どうすんだ!!!
 見ると閉じられたフロントの前に留守宅の客室のものと思われるカギがずらりと並んでいる。外出から戻ったら、勝手にカギを持って行け、ということらしいのだが・・。だけどもしも悪意の人間がやって来たら、どうするんだ???
 安宿のセイフティボックスなんざあてにならない。
 先人の置き土産と思われる旅行指南書(食堂にぽつんとあった)に書かれていた。ごもっともである。
 おそらく今晩、連れの靴に引き続き、どこかの部屋のウォークマンとカメラが消えることだろう。
 腕時計や旅券は肌身につけている人が多いだろうが、カメラやウォークマンはついぞ部屋に置き去りにしがちである。
 ていうか、まだ晩飯代を〆てもらってないのだが・・。フロントには誰もいない。いったい誰に払えばいいのだろう・・。
 タイ人は他人(宿泊客)の管理もずさんだが、手前(宿)の管理もずさんだ。だから結局はプラマイゼロで帳尻が合っているのかも知れない。
 ともあれ今度の靴は盗まれないように注意されたし。何しろ799バーツもする高級品なのだ。ここの宿の宿泊料三日分でもまだ足りない。だいたいこの靴一足のためだけにバイクタクシーを二台もチャーターして、市場まで往復80バーツ。それだけだって今日〆忘れられたメシ代に匹敵するんだから・・。
 以上、旅のトラブル報告でした。



■タチレクの乞食(*1)
 ミャンマーとタイの国境の町タチレク(ミャンマー領)には大量の乞食がいて、これがまたしつこい!通常(タイの)乞食というのはおとなしく、じっと路上に座り善意の人の施しを待っているのだが、タチレクのは自らの足で歩いて、人によっては走って、金をくれと追いかけてくる。そんな元気があるなら農業でもゴミ拾いでも、何か他にできることがあるだろう?とも思うが、ミャンマーにはそれすらも仕事がないのか、もしくはそこまでしてでも乞食業に従事したほうが儲かるのか・・。ミャンマー側の情勢が安定しているときなどは、国境を越えたとたんに何十人もの乞食に囲まれる。



< home2003年目次 > 1_バンコク中央駅 > 2_タイ天国と地獄 > 3_混沌のアジアビーチ > 4_カメ島へ行く > 5_パンガンに挑む > 6_夢の終わり > 7_ハードコンタイ > 8_赤土の大地へ > 9_恋するチェンマイ > 10_山の子 > 11_故郷(ふるさと) > 12_花見タイランド > 13_旅のトラブル > 14_時代 > 15_旅というレース >

製作者に電子お手紙を送ってみる → mekhong77@yahoo.co.jp

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送