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1_エッカマイの夜

 

 どうもわたしはあとで考えると不合理なことをしていることがおおいようにおもう。
 たとえば汽車の切符を初めて買ったとき、よくよく考えたらその辺の旅行代理店に頼んで買ってもらえばいいのに、わざわざタクシーに乗ってワランポーン鉄道駅まで切符を買いに行った。
 大きな観光地には外国人相手の旅行代理店がたくさんあって、鉄道の切符でも宿の予約でも何でも代行してくれる。ツアーバスもたくさん用意していて、効率よく見所を見てまわることもできる。
 日本ではあまり馴染みのない商品ではチャーターバスという商品があり、これなどかなりオトクな商品だ。
 市街地から空港までのミニバス(ワンボックス)や、有名観光地を結ぶ長距離大型バスまで商品はさまざまで、特徴はとにかく安い。公共の交通手段で移動する場合の半額ぐらいで移動できたりもする。
 しかしわたしはそのいずれもあまり利用したことがない。
 今回も何故かわたしはエッカマイ(東バスターミナル)にやってきた。

 東側の海というのに行ってみたかった。どこに行きたいとは決めていなかった。だからとりあえずラヨーンへ行ってみようとおもい、ラヨーンに行くバスはエッカマイから出るというので、とりあえずエッカマイまでやってきたのである。
 エッカマイに降りるのは初めてだった。

 ちなみに空港からエッカマイまでは、路線バスとスカイトレイン(高架鉄道)を乗り継いできた。
 バンコクではワランポーン(バンコク中央駅)周辺にいることがおおく、スカイトレインに乗るのは初めてだった。
 このスカイトレイン、開通したのは何年も前なので、まったく「いまさら」なのだけど、うわさに聞いていたとおりに、自動改札機の扉が閉まるのがやたらと早い。乗車券を投入したらダッシュで改札機を抜けないと改札機の扉にはさまれる。車内は日本のモノレールや市内鉄道とはちょっと雰囲気が違って、なんだかヨーロピアンな装丁だなとおもった。

 初めて降りるエッカマイの町はおもっていたよりも全然静かなところだった。スクムビット通りに面しているのなら、もう少しにぎやかなのじゃないかとおもっていたのだけど・・。
 しかしそれはワランポーン周辺の静かさとは違って、だいぶんと健全な印象でもあった。
 普通のタイの普通の町、という印象だった。

 最近、我が家周辺に大量の外国人観光客が出没している。
 ちなみに我が家は東京の片隅のごくごくありふれた住宅地にある。周辺際立った見所もなく、成田や羽田といった空港へのアクセスもあまりいいとはいえない。成田までは片道2時間ほど。羽田は直線距離ならかなり近いが、勝手のわからない外国人にはあまり便利とはいえないかんじだ。
 今年のゴールデンウィークは羽田周辺で仕事にありつき、羽田まで通っていたのだけど、羽田まではバスを乗り継いで行く。電車もないことはないが、乗換えでかなり歩かされる。
 こんなところに何故外国人が???
 でも実際に外国人が多発している。タイでもよく見る大きなザックを担いだ観光客然とした西洋人が、近所のコンビニや酒屋に大勢いるのである。地元スーパーの惣菜売り場でザックを担いだ西洋人の若い女の子たちが全員「寿司弁当」を持っているそのサマには、正直かなりうけた。

 これはワールドカップ以来の現象なので、おそらくワールドカップで都心のホテルにあぶれた旅行者がこの辺のビジネスホテルを発掘してしまったのだろう。興味深いので調べてみたら、この周辺にはガイジンハウスも数軒あるらしい。
 誰が名づけたのか、日本のゲストハウスは「ガイジンハウス」と呼ぶらしい。ちなみに一泊あたりドミトリー(相室)で1500円ぐらいから、個室で3000円ぐらいから。東南アジアのそれに似て、民家やアパートを流用した建物がほとんどのようで、6畳に2段ベッドを2台詰め込んで4人部屋などという状態なのだが、それでもそこには一般のビジネスホテルなどにはない便利や快適もあるのだろう。
 英語のわかるスタッフがいたり、空港までの送迎があったり、市内観光(はとバス?)の予約を代行してくれたり。何よりも、健全な旅行者同士で気軽に情報交換ができるというのは魅力だとおもう。

 だけどもし初めての日本でここに来てしまったら???

 ありふれた地元スーパー、酒コン、女子高生、サラリーマン、通勤バス・・。

 彼らはこの町に何を見ているのだろう。

 エッカマイもそんな町だった。

 小雨の降るバンコクの夕闇の中、ひたすら歩く。
 というのも、手持ちのガイド本には周辺のホテルリストが掲載されていないのだ。何しろここは「ありふれたタイの町」らしいので・・。
 しかしバスターミナル周辺という場所柄、適当な宿の何軒かはあるのに決まっている。そう思い込んでひたすら歩く。
 しかしスクムビットの通りに面したところにはそれらしいものはなく、仕方なく来た道を戻る。もちろんもう少し市街地に入れば宿の何十軒か何百軒はあるのだろうが、それではせっかくエッカマイまできた意味がない。
 わたしはバスターミナルまで荷物を担いで歩いても負担にならない距離で宿を探したかった。できればバスターミナルから徒歩五分圏内で。
 って、宿探しにこれだけ奔走するなら、さっさと市街地に宿を決めて、明日はタクシーなりバスなりでエッカマイまで移動したほうが楽だという気もするが・・。
 だからようするに、わたしはどうもあとで考えると不合理なことをしていることがおおいのである。
 しかし、そのときはそんなことはおもっていないので、来た道を戻り、今度はスクムビットから少し脇に入ったあたりで宿を探すことにする。脇に入ってすぐのあたりに一軒こぎれいなホテルのようなものを見たが、それがホテルであるかどうかを確認するよりも前に、外観だけちらと見てあきらめた。たとえそれがホテルだったとしても、安くなさそうだったから。
 ホテルのようなものの前には数台のタクシーが待機していて、周辺には日本料理屋などもあったので、たぶんホテルなのだろう。
 そうやって不合理に歩きまわることしばし、ようやくバスターミナルから徒歩三分ほどの場所に一軒の宿を見つけた。フロント周辺はこぎれいにしていて一瞬それなりのホテルにも見えなくはないのだが、全体的な外観を見る限りではあまり高級感はない。
 ここならたぶん予算内におさまるだろう。
 そうおもって、フロントへ突撃する。
 コンニチワ、ここは部屋はいくらからですか。
 空き部屋があっても予算内におさまらないことにはしょうがないので、いつの間にか部屋は「いくらから」ですかを丸暗記してしまった。
 380です。
 フロント係は確かにそういって、だけど念のため380ですかと確認を取る。
 しかしフロント係にはその確認の380ですかが「高いなあ」と聞こえたのだろうか。
 でも、うちにはエアコンもテレビもあるよ。
 そう付け加えた。
 って、380(1000円強)の宿代を高いとおもう日本人はそうそういないとおもうのだが・・。
 でもま、「割の悪い宿」というのはある。
 それは、380も取っておいてこの部屋なの?と首をかしげたくなるような宿である。
 以前バンコクの某所で、200もとっておいてこの部屋なの?というすごい宿に遭遇したことがある。
 200バーツは600円ほどなので金額的には高くはないが、一本わき道に入れば250でもっといい宿がいくらでもあるのだ。だいたいメインロードだって200でこれはないだろう?というレベルである。ちなみに隣の宿はメインロード沿いで150だが、ここよりはだいぶんマシだ。しかし周辺どこも空室がないようなので、仕方なくチェックインした。
 以来一度もあの宿を使っていないが、あまりに印象的だったので、いまでも入国カードの滞在先にはあの宿の名前を書いてひとりで笑っている。

 エッカマイの380はいい宿だった。とはいっても所詮は380なのでたいした宿ではないが、380にしてはお買い得におもえた。室内はあまり広くはなかったが、確かにエアコンもテレビもあり、石鹸やバスタオルもある。

 わたしは普段あまりテレビを見ないのだが、旅先ではけっこうテレビを見る、というか見たがる。わたしの語学力は低く、テレビの言うことの九割は理解できないのだが、それでも一介の旅行者が気軽に現代タイを見ることができるテレビというアイテムは、面白いとおもう。
 テレビコマーシャルだけでも、いまのタイでどんなものが流行っているのかを垣間見れるし、8時と6時の国歌が各チャンネルで数秒ずつずれているのも面白い。ともすると2回国歌が聴けるので、この時間帯には面白がってチャンネルをガチャガチャ動かして、「輪唱」で国歌を聴いたりして楽しんでいる。韓国ドラマや台湾ドラマといった、日本のテレビではあまりお目見えしない外国番組が大量に輸入されているのも興味深い。

 初めてのスカイトレイン、初めてのエッカマイ。ありふれた旅行だけど、わたしにはちょっと冒険気分だった。

 だけどやっぱり、あとでおもうとどうにも不合理に動いているような気がしてならない。

 

 

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